チロル州の人達はとっても親切。 私が属しているコミュニティにおいて、私は「謎のアジア人」ではなく、 「○○さんちのお嫁さん」。 みんなが私に優しくしてくれるのは、 ダンナくん一家が代々培ってきた人間関係のおかげだと思っていました。 でも。 時がたつにつれてみんなの目には、 何か別の感情が浮かんでいました。 その表情の感覚を例えるなら 「雨の日にずぶ濡れで、うなだれてる子犬」を見るような瞳。 いつも気の毒そうな、心配そうな感じ。 晴天のはずなのに、私だけずぶ濡れらしい。 みんなは私のことをとても心配していて、それでより一層、親切にしてくれてるらしいです。 ずぶ濡れで働いてるハチ公を見かねた人が「言葉なんてわかんなくていいから、うちにごはん食べにおいで!」って誘ってくれる、みたいな。 どうも私は、チロルの人たちにはとても耐えられない生活をしていたらしい。 友達や家族、全てを遠くの国に残して、 言葉がわからない国に来て、基本的にひとりぼっち。 義母のトイレの世話などでいつも留守番役のため、 普段の買い物もダンナくんに頼んで家にいて、家から一歩も出ない。 時々、子供を連れて近くの公園。 完全に自由な時間は、部屋で自分の仕事をしている。 もしくは、具合が悪くて寝ている。 時々、友達とチャットしたり、ネットのゲームをしている。 それって彼らにとっては、 なんだその人生は!?ってことらしい。 ずーっと働くだけで、仕事してないのは病気の時だけ?!って。 (義母の世話、家事、育児も、仕事に相当するらしい。) Σ(゚Д゚;≡;゚д゚) えっ、でもこれって結構、 平均的な東京人の暮らしな気がしてるんだけど?って思って、 日本人的な感覚では結構普通のことですよ、って 彼らを安心させたくて、何度か説明を試みました。 (´∀`;) 「いや、でも、例えば有給休暇を病気の時だけ使うのは、 ごくごく普通の日本人サラリーマン状態ですよ。 だから日本の人達からは、ハイジのこの暮らしは 海外旅行みたいに楽しいはずで、贅沢してるって言われてます。 日本で暮らしてるみんなが今大変な思いをしているのに、 ドイツだなんて環境のいい国で、お前だけいい思いをして、って。 人間関係にも恵まれて、それで不満や愚痴を言うなんて、贅沢な怠け者だって。 もっともっと努力しろって、いつもたくさんの人から怒られています。 今の私は、日本人の感覚からすると、贅沢なんですよ。あはははは。」 そんなことを説明してもらったら、 安心させるどころか、全員に絶望的な顔をされました。 田舎町の彼らが知ってる日本語は 「ハラキリ」「切腹」「過労死」「バンザイ」。 自分から死んじゃう言葉が有名らしい。 (文化が違って事情も知らない彼らの常識からすると、過労死は「逃げずに、そこまで働くことを自ら選んで死んだ」って受け取られています。万歳も元来はおめでたい言葉のはずなんですけどね。) (°⊆°)(°⊆°) 「やっぱり噂通り、日本人って、本当に……。」みたいな表情でした。 そうして 周りにそんな顔をされても、 長い間、私は生活を変えることができませんでした。 ドイツとオーストリア、二カ国を跨いだ暮らしが、マヌケな私には不相応にハードすぎて、何もかもが脳みその処理能力を超えて、わからなさすぎました。 国が違うってことは、渋谷区と港区の違いどころじゃない。 一方ではOKなことでも、もう一方では処罰対象の違法になったりします。 ダンナくんもドイツの法律を知らない。 でも知らなかったじゃすまされないから、生活にあわせてそれぞれ全部覚えなくてはいけません。 新卒の新入社員なみにパンク状態で、休日は寝てすごしました。 語学学習は標準語の北ドイツ語、でも住んでるのは訛りのある南ドイツ。 オーストリアドイツ語のチロル州ともなると、首都ウィーンの人もわからない訛りレベルの、別名「チロル州語」。(←ドイツ人も理解できない言葉。) 一応ドイツ語ネイティブのダンナくんですら、南ドイツ語を間違えるのに、北ドイツ語を勉強しながら、南ドイツ語とチロル語を勉強して、もう脳みそは爆発状態。 そりゃあ、休みの日は寝ます。 もう疲れ切ってて、誰にも会わないで、ひたすらボンヤリしたい。 休日のお父さん。 チロルの友達に会ったら、休みなのに必然的にまたチロル語レッスン状態になるから、だからなるべく1人で家に残るんだけど、そうすると増々心配される。 私は語学留学に来たんじゃないです。介護&育児&仕事する主婦です。 自ら望んでこの状態じゃないので、ドイツ語の女性名詞、男性名詞、他、ひたすら覚えるなんて、全く興味が無いアイドル研究生の星座や血液型をひたすら永遠覚え続けてる心境です。 ↑ (・∀・)誰に向かって言ってるの? そんな暮らしが続いて、でも、義母が亡くなってしまって、 ダンナくんが病に倒れて、まだ若い知人友人たちの相次ぐ訃報を受け取ったり、 いろんなことがあって…… (>_<) 私が人生で大切にしてきたもの、ってなんだったんだろう…? それは本当に、大切なものだったんだろうか? 明日も元気に生きてるかどうかも知らないのに。 明日死んでしまうのなら、こんな今日で、本当に満足できる? そんなことを考えるようになりました。 (注:ダンナくんも私もまだ死ぬ予定はないですよ。念のため。笑) そして、少しずつ、ダンナくんに頼らず外に出かけるようになり、 カフェに行ったり、買い物に行ったりするようになり、 友人や叔母さんたちの誘いにも なるべくのるようにすることにしました。 オーストリアドイツ語(チロル語)を息を止めるように集中して聞いて、 何を話したらいいのかわからない、疲れる、って思ってたけれど 言葉に集中することもやめて、ただボンヤリと編み物をすることにしました。 みんなは編み物がとっても上手だから編み物を教えてもらうことにしたんです。 それなら話さなくても気まずい気持ちにならないし、編み物は見て覚えられるし。 みんなは私の提案に大賛成で、うれしそうに教えてくれました。 家族で仲良しの某さん一家は、ダンナくんのもうひとつの家族のような人達です。 そこの家のお母さんに編み物を教えてもらって、義母のかわりに教えてもらってる気がして、「ママみたいだ。家族みたいだ。」って言ったら、「家族って思ってもらえるとうれしい。そう思って。」というようなことを言われました。 みんなでお茶を飲みながら編み物をして、
その間、誰かがユーマの面倒を見てくれて、 静かで穏やかな時間が流れて、うれしそうなみんなの顔を見て、 「ああ、この人たちは、ずっとずっと、長い間、私の力になりたかったんだな。」 と、そんなことをやっと感じて、 待たせてごめんねって、 ずっと待っててくれてありがとうって、ありがたい気持ちで みんなに気づかれないようにそっと涙をふきました。 そうして少しずつ、自分の毎日を変えることにしました。 当たり前に思っていた自分の毎日をもうそのまま受け入れることはせずに、 もっと楽しいものに変えていこうと。 言うなれば、現地化です。(笑) 日本で暮らすほうが断然、言葉も文化も法律も私にとっては楽なんだけど、ここは日本じゃないんだから、少しずつ、少しずつ。 私が楽しそうにしてると、ドイツの生活が楽しいなら日本にもう戻ってくるなとか言われるんだけど、もっともっともっと楽しく暮らすことにしました。 「海外でも日本人の誇りを捨てずにどこに行っても日本人らしくしろ」とか、外国文化を褒めただけで「日本を卑下するのか」とかって言う人は、たぶんきっと日本に来た外国人(旦那)に「ここは日本なんだから日本の習慣に合わせろ、それが嫌なら国に帰れ。」って言ってた人のはずです。そういう類いの非難が、なんかもう本当にどうでもよくなって。 各所で柔軟に合わせられることこそが日本人の素晴らしい特性だと思っていて、私も出来る限り現地に合わせようとしてるんですけどね…。ていうか私はちっぽけな主婦で大使でも有名人でもないのに、何を求めてるんだろう?'`,、 (ノ∀`) '`,、'`,、 もう諦めることをやめたんです。 楽しいことは、自分でつくることにしたんです。 私は自分の考えと誇りに基づいて、縦横無尽に生きます。 こちらに来て1年と数ヶ月。 留守番の必要もなくなり、外出して少しずついろんなことに慣れてきました。 今度、近いうちにAT車を買うことにしました。ペーパードライバーだけどね。 でもなんとかして、ダンナくんを乗せてあげられるように。 自分でできることを、増やすんです。 ここの雪の山道で使えるかどうか心配だけれど、マニュアル車を練習してる場合じゃないから。 家族で楽しい冬を越すために。 毎日なにか、たのしいことをするんです。
3 コメント
はじめまして。時々ブログを拝読させていただいていました。
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misao
30/10/2012 05:33:15
私も産後家にこもっていたら、周りから心配されました。日本では新生児連れて外出なんて避けるべきだ!みたいに言われることが多いけれど、カナダでは、みんなガンガン赤ちゃん連れて外出するので。
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くま
7/11/2012 18:21:37
ハイジさん。いつも楽しく読ませていただいています。今日の記事はなんかすごく共感できて、初めてコメントさせていただきます。私も海外生活をしています。最初は留学で某英語圏の国に渡り、今の旦那さんと出会って、非英語圏の彼の出身国に引っ越してきました。とにかくまず留学先で英語をマスターするのが大変で大変で。日々辛くて泣いてました。流暢にしゃべれるようになるのに3年はかかりました。なので今度は英語ではないまた別の言語を習得することになったとき、いやもうあせらずにやろうと。これは長距離走なんだから、私は私のペースでやらないと心が持たなくなる。疲れたら引きこもるから、無理させないで、と旦那に宣言しました。
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AuthorAlpenHausfrau Heidi ■免責事項 当サイトに掲載された記事情報及び意見や見解は、個人の感想レベルであり、その内容について何ら保証しません。情報の間違いなどに対して一切の責任を負いませんのでご了承下さい。 Archives
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